一級建築士事務所
  株式会社オムニ設計
   
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耐震偽装事件に関して
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≪ 耐震偽装事件に関して ≫
   
   
建築構造設計に携わる身として、非常に残念な事件が起きてしまいました。建築物は人の命を預かる物であり、かつ大切な財産でもあります。よって、我々は常に慎重にかつ、人知を尽くして設計業務に当たっております。そして、それは当たり前の事であると信じておりました。
しかし事件は起こってしまいました。それは何故か?マスコミの報道では「審査がちゃんと行なわれていないのでは?」とか「コストダウンを求める業界の体質が問題なのでは?」などとの声も出ておりますが・・・
   
   
『 構造設計の歴史と電算の利用に関して 』
   
構造計算書は、15〜20年ほど前までは手計算で手書きで作るものでした。そして手作りであったが故に、書き手である設計者の設計意図や設計者の熟練度まで読み取れるものでした。ですので、マスコミの報道でも言われている様な「性善説に則った審査」でも、そのチェック機能はある程度果たしていたと考えられます。   
しかし、現在の構造計算書は、認定ソフトの使い方さえ覚えてしまえば、構造設計の知識や熟練度が乏しくても形だけは作れてしまいます。それと同時に、審査をする方にとっても「マニュアル的なチェックが可能になり、熟練者でなくとも内容が見れるようになった」とも言えるのです。
今回の事件で「まったくチェックしていない」と思われる件が出てきているのには、言葉もありませんが、このような背景がある事も事実なのです。電算やソフトの発達は構造設計の分野においても大きな貢献を果たしてきましたし便利にもなってきましたが、一方でこの様な弊害も生じさせているのです。
   
   
『 官→民 の流れに問題が? 』
   
このような指摘もマスコミから聞こえてきますが・・・
これは、現実を知らないから出てくる声ではないでしょうか?例外もあるでしょうが、官での審査の方が内容的にお粗末という傾向はあります。官では3週間、民では2週間などとの報道もありますね、この期間は実際に内容を見ている期間ではないのです。山のように積まれたままの期間が何日を占めているかわかりますか?一般的に官の方が山積み期間が長いのです。民の場合は、仕事が溜まればある程度残業してでも仕事をしてくれますが、官の場合はそうはいきませんよね?だから期間も長いのです。
イーホームズの場合は、たまたま天下りが多かった様ですが、豊富な設計経験を持った人を他の民間審査機関で多く見かけます。一方で多くの官の場合「審査担当より我々設計者の方が知識も技術も経験も断然上」だと、大多数の構造設計者は思っているはずです。
ですので、大きな流れとして「官→民」の流れは支持できるものだと思っています。ただし、民間の審査機関が完璧だと言っている訳ではありません。行政よりは「まだまし」と言っているだけです。今回の様な事件も起きてしまいましたし、見直しは当然必要です。
   
   
『 コストダウンを求める風潮 』
   
建築主やエンドユーザーの立場から考えて「同じものなら安い方が良い」との声があります。これは建築に関してだけではなく「安い方が良い」と考えるのは当然の事であります。そして構造設計の内容は、建設コストに大きな影響を与えますので、建築業界内部において「構造コストの削減」が求められるのも当然な事でもあるのです。
しかし、これを求めるあまり、必要な鉄筋を減らす・・・ これは問題外です。
   
   
『 真に求められているのは合理性 』
   
前の項で「同じものなら安い方が良い」との考えを書きましたが、ここでもう一度良く考えてみて下さい。ハウスメーカー等の規格品でもない限り、建築物はオーダーメイドの手作りです。従って構造設計の内容も建物ごとに異なりますし、基本的に「同じもの」では無いのです。
では、我々構造設計者が、どうやって「より安く」を実現させているか?それは「構造合理性の追求」であり、豊富な設計経験と、そこから生まれてくる創意工夫の結集などにより実現させて行くのが一般的であり、多くの構造設計事務所で取り入れている方法なのです。「合理的な設計」こそが求められているのであり、コストダウンの為に「安全性の犠牲」を許してはいけないのです。
   
   
『 貴方は建築物に何を求めますか? 』
   
デザインが大事ですか?
コストが安い事が大切ですか?
それとも安全性ですか?
   
   
『 このような事件は防げないのか? 』
   
今回の事件をきっかけとして、確認申請の手続きも大きく変わって行くでしょう。内容のチェックも厳しいものになる事は当然予想されます。しかしながら100%と言う言葉を聞く事は、なかなか難しいのも現実です。
現在の構造設計は非常に難しい解析を行っており、これを第三者が完璧にチェックするのは無理と言っても過言で無いほどに難しい事なのです。ですので、建物の発注や購入の際には、信頼の置ける施工会社の手掛けたもの、信頼の置ける設計者の設計が重要なポイントである事を忘れてはなりません。
また、発注者や購入者の目が厳しくなる事で、自然と健全化も進む事でしょう。審査機関に頼るだけではなく、社会の見る目そのものが変わる事も必要なのだと感じます。
   
   
『 意外な所に危険な建物が? 』
   
建築物の構造設計法は、大地震が起こる度に見直しをされ、あるいは電算機の発達と共に高度化し続けてきました。(それでもまだ未開な点も多く、発展し続けています)そんな背景があり、古い建物で現在の基準に適合させると、法が要求している耐力の半分程度しかない様な相当に危険な建物も街中には存在しています。
国土交通省は、阪神淡路の震災以降それを懸念し「建築物の耐震改修の促進に関する法律」と言うものを定めました。この法律には、1000平方メートル以上の建物には、耐震診断・改修する努力義務があると書かれているのですが・・・
その法律の認知度が非常に低い上に、そんな事を突然言われても”その予算も立てられない”人も沢山居るのです。国が予算を出せば一気に進むかもしれませんが・・・ (そもそも「努力」と言う用語と「義務」と言う用語を一緒にする事に無理を感じます)
もし、これをご覧になった貴方が、ビルのオーナーや管理組合の人でしたら、一度「耐震診断」を考えてみて下さい。「耐震診断」とは建物の構造体に関する健康診断の事です。
   
   
『 オムニ設計の姿勢 』
   
弊社の場合は、構造設計経験の豊富な設計技術者が設計に当たっており、多くの関係各社やユーザーからの信頼も頂いております。また、設計内容のチェックに関しても、その評価を審査機関に頼るのではなく、まず自社内において十分なチェック作業を行っておりますので、今回の様な問題とはまったく無縁な存在です。
そもそも構造設計と言う業務は「建物の安全」「そこに住む人の安全」を第一に考えるものであり、その事は弊社におきましてもスタッフ一同が常に認識している最大のポイントです。
そして、今回の事件をきっかけにして社内の過去10年分のデータを確認したところ、約700件もの設計を手掛けている事を確認しました。(1件で複数棟の場合もあるので、棟数では1000を超えていると思います)
一般的に、構造設計事務所は下請けとしての業務となりますので、構造計算書や構造図面の保存義務はありません。(元請事務所には5年間の保存義務があります)しかしオムニ設計では、過去5年分のデータを保存しておりますので、後から内容を確認する事も可能ですし、万が一の時でもご安心頂けるものと自負しております。
   
   
2006年1月
   
株式会社オムニ設計 代表取締役 金兵秀樹